#03

弘前から世界へ。
350年続く伝統の技で、勝負をかける

鍛冶職人吉澤 俊寿さん/吉澤 剛さん
有限会社二唐刃物鍛造所 代表取締役
吉澤 俊寿さんToshihisa Yoshizawa

津軽藩より作刀を命ぜられて以来、350年の伝統を受け継ぐ日本有数の刀鍛冶の名門、7代目当主。

地域に根づく伝統工芸の継承と後進の育成が評価され、2007年に青森県伝統工芸士、2011年に青森県卓越技能者、2013年に弘前マイスター、2018年にあおもりマイスターに認定。2020年には青森県文化賞を受賞。

有限会社二唐刃物鍛造所 取締役部長
吉澤 剛さんGo Yoshizawa

二唐刃物鍛造所の8代目。「折れず、曲がらず、よく切れる」と評判の二唐の技術を引き継ぐ、次世代の匠(たくみ)。

みずから技術の鍛錬を続けると同時に、地域おこし協力隊として受け入れた若手職人のリーダーとして、現場を率いる。2021年には、新進気鋭の作家・表現者に贈られる第6回東奥文化選奨を受賞。

衰退の一途をたどる津軽打刃物。国際見本市を機に、勝負に出る

城下町の弘前市は、昔から鍛冶が盛んです。二唐刃物鍛造所(にがらはものたんぞうしょ)は350年前から続く鍛冶屋で、代々、刀鍛冶を生業にしてきました。弘前の伝統技術「津軽打刃物(つがるうちはもの)」は、1200度の炉のなかで鉄と鋼を叩いて接合する「鍛接(たんせつ)」という技が特徴です。包丁づくりには24工程あり、昔は一人前になるのに10年かかると言われました。職人が一つひとつ丹精込めてつくる津軽打刃物は切れ味がよく、細かなオーダーにも対応できます。ただやがて鍛接の必要がない複合材料が主流となり、弘前の鍛冶屋は衰退の一途をたどってきました。

そこで私たちは、鍛造の技術を生かして建設現場や住宅用の鉄骨製作を始め、その収益をもとに打刃物の伝統を継承してきました。私が7代目の社長になった2000年には、売り上げの90%以上が鉄骨事業で、刃物製作はほとんど稼働していない状況でした。

転機を迎えたのは2007年。経済産業省の後押しを受け、弘前商工会議所がJAPANブランドを世界に発信するプロジェクトを始動させました。その一環で出品したヨーロッパでの見本市で、私たちの刃物が思いのほか高い評価を得たのです。この追い風に力を得て、「よし、世界で勝負してみよう」と決意しました。

看板製品の大量注文に応えるため、生産現場の改革へ

現在、私たちは家庭用・業務用の包丁、お客さまからの特注品などさまざまな製品をつくっています。なかでも海外の方から大好評なのが、独自の技術で開発した「暗紋」です。鉄と鋼を何重にも重ねて磨き上げることで、ひとつとして同じものがない、神秘的で美しい波紋模様を浮かび上がらせる手法で、弘前に近い白神山地の麓にある「暗門の滝」から着想を得ました。この暗紋シリーズは国内外のメディアで紹介され、ドイツ人デザイナーとのコラボ作品も制作。デザインアワードを受賞するという栄誉にあずかりました。

さらに暗紋に惚れ込んだ海外の商社から、大口の注文をいただきました。ところがいままで製造したことのない受注量に、私たちのキャパシティでは生産が間に合いません。青森銀行さんに相談したところ、工場などの生産性向上を専門とするコンサルタントの方に支援いただけることになりました。

生産力強化の改革は、いまも途上にあります。しかし先生の助言に従った結果、新たな設備投資なしに、現時点でも生産量を2倍近く増やすことに成功。作業工程を見直すことにより、職人のスキルが短期間で飛躍的に向上するという、予期せぬ効果まで得ることができました。「効率化の本質は、価値ある時間をいかに増やすか」という先生の言葉にはハッとしました。無駄な時間を減らした分、付加価値を生み出す創造的な時間を確保できる。ご指南のおかげで、プラスの発想へと頭を切り替えることができました。

あおぎん応援団より
企業支援アドバイザー
箭内 武アドバイザー

モノの流れ、レイアウト、製造設備。
現場の観察で見えた、生産力アップの糸口

製造現場の生産性を向上させるポイントは、「工程ごとの加工待ちの状態をいかに減らすか」です。今回のアドバイスにあたって、はじめに現場と製造工程をじっくりと観察させていただきました。すると、手待ち時間が長いことが見えてきたんですね。作業が止まってしまう時間を減らすべく、これまで細かく分業していた工程をひとりの職人さんに一貫してやってもらうようにしました。
さらなる効率化のために、レイアウト変更や設備の増設も検討中です。せっかくなので二唐刃物鍛造所さんの技術を生かして、研磨機そのものを自社開発してはどうか、などと話し合っているところです。

青森・弘前を、この国の若者が憧れる刃物の産地にしたい

8代目である私の目標は、二唐刃物鍛造所が代々受け継いできた日本刀の技術を復活させ、「刀匠」の資格をとること(※)。もうひとつ、津軽打刃物のブランド力と知名度を高め、その魅力を世界へ発信するというビジョンもあります。刃物の展示ギャラリーを併設したオープンファクトリーをつくるという構想は、そのビジョンの核となるもの。津軽打刃物の魅力に目覚める人が多くなれば、職人になりたいと志願する若者も増え、風前の灯だったこの業界を盛り返せるはず。そんなふうに思うのです。

実は以前、オープンファクトリーの計画を青森銀行さんに相談したことがあります。でもそのときは、「いまは生産体制を安定させるのが先ではないでしょうか」と諭されました。よく考えればその通りです。気持ちばかりがはやって、物事の優先順位が見えなくなっていたことに気づかされました。

ありがたいことに、かつて売上の1割にも満たなかった刃物の需要が、いま飛躍的に伸びています。生産体制の強化や職人の育成など、まずは会社としての土台をしっかりと築くこと。そのうえで、伝統を守りながら新しいことに果敢にチャレンジしていくこと。いつの日か弘前が、「二唐で刃物をつくりたい」と日本全国の若者が集う、刃物の産地になることを夢見て――。私たちの挑戦は、まだ始まったばかりです。

  • 刀匠(とうしょう)……刃物づくりの最高峰として、高い技術力が求められる日本刀製作。作刀には、刀鍛冶の技術を取得した者に与えられる匠の資格「刀匠」を得る必要があります。
あおぎん応援団より
青森銀行 弘前支店
福田 和輝

事業者さまの生の声に耳を傾け、
現場をよく知ることで、未来を見据えた提案が可能に

「銀行はお金を貸すのが仕事でしょ」。そんな印象をもつ方が多いのではないでしょうか。しかし青森銀行は、経営にまつわるあらゆるお困りごとに応える存在でありたい、と考えています。そのために大切にしているのが、決算書だけでなく、事業者さまの生の声や現場を深く知る姿勢。オープンファクトリーのご相談に対してあえてブレーキをかけさせていただいたのも、二唐刃物鍛造所さまの夢を本気で応援しているからこそ。「弘前から世界へ」というみなさまの想いを誰よりも理解する応援団として、これからも多方面からバックアップさせていただきます!